
言論NPO代表の工藤泰志です。
今日はお忙しい中、こんなに多くの方に集まっていただき、本当にありがとうございます。
まず、主催者を代表して、皆さんにお礼を申し上げたいと思います。
今、最高顧問の岸田前首相のご紹介にあったように、「東京会議」は2017年に私たち言論NPOが、世界10か国の民主主義の国の、世界を代表するシンクタンクの皆さんと一緒に立ち上げた世界会議です。
私たちが、この日本で、世界の多くの人と「東京会議」を立ち上げたのは、
戦後、多くの努力で作り上げた法の支配や多国間協力に基づく、
国際秩序が壊れはじめ、むしろ分裂が広がっているからです。
私は、日本こそがこの歴史的な局面で、役割を果たすべきだと考えています。
この日本に、この困難を乗り越え、世界の未来に向き合う、新しい世界の舞台を作りたい。
私たちの「東京会議」は、そのために誕生したのです。
この会議で私たちが、国際協調の旗を高く掲げ、議論を行うのは、世界は力を合わせるしか、世界が直面する危機を解決できない、と考えるからです。
今年は、あの第二次世界大戦が終結し、国連が、創設されて80周年の節目になります。
国連は昨年、「未来サミット」を開催し、危機に立つ多国間主義や国連を中心とする世界のガバナンスの立て直しを世界に提起しました。
ところが、世界はこの戦後80周年の今年、むしろ、逆の方向に向かって動いています。
私たちが今回「国連創設80周年に問われる国際協調と平和の修復」を全体テーマに据えたのはこの問題に、取り組むためなのです。
米国のトランプ大統領の国際法や多国間協力に価値を認めない、自国第一主義的な行動は、世界が振り回しています。
ロシアのウクライナ侵略ではウクライナや欧州の頭越しに、ロシアとの交渉が行われ、ガザでは、パレスチナ人の周辺移住案まで打ち出しています。
トランプ氏の行動を私は全て否定しているわけではありません。
課題の解決に向けて、事態を動かそうとしているからです。
問題はその解決の在り方です。
ウクライナとガザの和平は、岸田前首相のお話にあったように、公正で永続的でなくてはならない。
では、それをどのように実現するのか。
そして、私たちには、突き付けられた大きな課題があります。
トランプ氏の自国第一主義に基づく行動は、今後の国際社会の在り方まで、決めてしまう可能性があるからです。
一体、私たちは、どのようにルールに基づく世界、そして、協力に基づく世界を守るのか。
私たちは、民主主義と国際秩序の、何を守らなくてはならないのか。
それを、どのように実現するのか。
それが、この会議に問われている課題なのです。
すでに、私たちは昨日から非公開の場で議論を始めており、考えがまとまればメッセージをこの東京から世界に提起する、ことになります。
この問題を今日、東京会議に参加した、皆さんにも一緒に考えてもらうために、この2月、私たちは、国際社会の在り方について、日本の有識者へのアンケートを緊急に行いました。
いくつかの結果をここで紹介させていただきます。
言論NPOのこれまでの活動や議論に参加した4000人の日本の専門家や有識者を対象に行ったもので、419人の方に回答を集計しました。
まず、日本の有識者、専門家の9割もが「国際協調」は、かろうじていくつかの分野で機能しているにすぎず、危機的な状況にあると判断している、ということです。
また、今年、80周年を迎える国連が世界の平和や課題を解決していく上で「機能していない(「どちらかといえば」を含む)」と回答する有識者は80.9%と8割を超えています。
私たちは、このアンケートで気候変動や自由貿易、核拡散防止など10のグローバル課題の評価を試みましたが、
この25年、世界の国際協力は全面的に停滞すると、日本の有識者は見ており、「膠着状態で前進が期待できない」「後退する」「すでに機能していない」と考える
人は、多くの分野で8割に達しており、逆に「前進する」が、2割を超えているのは、1項目しか、ありません。
「AIやデータ活用における世界共通のルール制定」の27.4%、です。
ただ、日本の有識者は、世界の課題へ、世界が力を合わせることを完全に諦めているわけではありません。
米国のトランプ大統領の行動で、28.4%と3割近くは「多国間協力は事実上機能しなくなる」と判断していますが、
49.4%と半数は、「他の国々の説得や努力で国際協調への影響を軽微にすることは可能である」と回答しています。
また、国連が提起するグローバル・ガバナンスの改革も、こうした改革が今後具体化していくことが「期待できる」と考えている有識者は8.1%にすぎず、
48%と半数近くは「期待できない」と回答していますが、ただ、「どちらともいえない」という回答も38.4%あります。
日本の有識者が今年2025年の世界で最も懸念していることは、「米国のトランプ政権の自国第一主義的行動」が44.9%で、突出しています。
以下、「民主主義国での極右や自国第一主義の高まり」(32.7%)、「国際協調やグローバル・ガバナンスの行き詰まり」(31.3%)の順となっており、私たちが、今回の「東京会議2025」で掲げる主要テーマとも合致する結果となっています。
世界で広がる自国の利害を第一とする行動は、G7など西側諸国やBRICS、グローバル・サウスといったグループ間の亀裂をさらに拡大させかねないものとなっています。三極それぞれの今後の影響力の変化を予測してもらったところ、G7については、有識者の67.3%は今後の影響力が「減少する」と見ています。
これに対してグローバル・サウスについては、影響力が「拡大する」との予測が76.8%と8割近くになっています。
BRICSについては、影響力が「拡大する」との予測が52.3%と半数を超えていますが、「これまでと変わらない」と判断している有識者も33.9%と3割います。
このグローバル・サウスが、G7など西側とBRICSのどちら側に付くのか、ではG7、BRICSの「双方と関係を持つ傾向は変わらない」が、39.4%で最も多い回答となっていますが、しかし、グローバル・サウスの国は、西側よりも「BRICSと歩調を合わせる」との見方が32.7%で迫っています。「独自の勢力としての発言力を強めていく」との見方も22.2%あります。
では、国際協調に背を向け、自国第一主義の行動を続けるトランプ政権に対して、民主主義国はどう向き合うべきか。
日本の有識者は「独善的な行動を取らないように米国に働きかけるべき」の50.1%と半数を超え、最も多い回答になっています。
それに対して、「米国の行動に耐え、その影響が拡大しないように努める」が、24.3%、「米国抜きで国際協調を進める」も17.9%と
それぞれ、2割程度しかありません。
日本の有識者の多くはまだ、米国の行動の修正を期待しているのです。
ただ、今後の日本外交のあり方については、日本の有識者の7割は、「米国との関係を重視しつつも、中国を含めた様々な国々との関係構築も進めていくべき」と考えており、「これまで通り米国を重視すべき」は13.4%で最も少ない回答になっています。
トランプ氏は、6カ月以内のウクライナ戦争終結を目標として掲げています。
トランプ氏の行動に対して、日本の有識者の7割近くが、この戦争が終結に向かうと考えています。
ただ、そう回答した人の52.6%と半数以上が、戦争の終結がウクライナ地域における平和につながる、とは「思わない」と回答しています。
今年1月に停戦合意に至った、ガザ地域ではトランプ氏は2月にガザの全住民を域外に移住させ、跡地を米国が「所有」し、再開発を担う案を発表しています。世界がこの地域で目指してきた、イスラエルとパレスチナが独立した二つの主権国家として平和的に共存する「二国家解決」とは異なる方向を目指しているように見えます。
これに対して、「二国家解決」の実現が「まだ可能だ」と考える有識者は13.8%と1割程度に過ぎず、「もはや不可能だ」との見方の34.1%を下回っています。
しかし、最も多い回答は「現段階では判断できない」の48%で、半数近くは、2国家解決の可能性を否定していません。
これに関連して、パレスチナ全域でイスラエルによる支配が強まりつつありますが、これらの地域をイスラエル一国のみによって統治することには、日本の有識者の83.5%は「支持しない」と答えています
では、これからの世界の秩序で各国は何を一貫して追求すべきなのか。
これが、最後の質問ですが、「他国の主権や領土を尊重し、侵略や現状変更を認めないこと」との回答が35.8%で突出する結果となっています。
以下、「人間の尊厳」(19.3%)、「法の支配」(18.1%)、「国際協調」(15.3%)の順となっています。
最後になりましたが、この「東京会議」はパンフに記載された10の企業のご支援で成り立っております。
時間の関係上、個別名は差し控えさせていただきますが、この場をお借りしてお礼を申し上げたいと思います。
それでは、お待たせいたしました。これより「東京会議2025」を始めさせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。